
都会――閉ざされた無限。けっして迷うことのない迷路。すべての区画に、そっくり同じ番地がふられた、君だけの地図。 だから君は、道を見失っても、迷うことは出来ないのだ。(本文より) 失踪した男の調査を依頼された興信所員は、追跡を進めるうちに、手がかりとなるものを次々と失い、大都会という他人だけの砂漠の中で次第に自分を見失っていく。追う者が、追われる者となり……。 おのれの地図を焼き捨てて、他人しかいない砂漠の中に歩き出す以外には、もはやどんな出発もありえない、現代の都会人の孤独と不安を鮮明に描いて、読者を強烈な不安に誘う傑作書下ろし長編小説。 本書「解説」より 『燃えつきた地図』は安部公房の傑作の一つであるばかりでなく、現代日本文学の有数の傑(すぐ)れた小説だと思う。作家としての安部氏の履歴では、プロットや人物の自然な展開等のような在来の小説の慣習を破る最初の小説であった。勿論、短編や戯曲の場合、安部氏は前衛的ないし超現実主義的な技術を活用することがあったが、長編の方は、冒頭に述べた前提から合理的に発展したものだと言ってもよかろう。 ――ドナルド・キーン(コロンビア大学名誉教授)