
黒い波は踊り波頭は銀に輝いた。月の魔力で夜の海の満ちる時、あの尋常ならざる事件は起こった。当時、私はまだ十四歳であった…… 父にねだって買ってもらったいかにも小説家の持物らしい高級な万年筆のキャップをはめたり外したりしながら、新しい小説の書き出しに呻吟していると、姉がやって来て急に私のノートを閉じてしまった。 「どいて」と姉が言った。 「どいてえ」と妹が真似た。 妹は私のノートを押しのけていんげんの入ったボールを置いてその前に座り込んだ。 「全部一人でやってね、弘子は手伝ってくれないから」と姉が三女に耳打ちした。 「いやらしい。なんでそんな言い方するの」 「だって手伝ってくれないのでしょ」 「言い方がいやらしいと言ってるのよ。ちゃんと私の質問に答えなさいよ」 姉はエプロンをした腰に手を当てて私を向いて、 「どう言えばいいの」と言った。 「手伝って欲しいなら手伝ってくれと言うのが普通のことでしょう」 「じゃあ、手伝って」 「嫌」 私はそう言ってノートを掴むと、西向きの出窓に行った――
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